偉人『マリー・ローランサン』

女性の社会的地位が低い時代に自己の才能を開花させ成功した女流画家マリー・ローランサン。彼女はパステル調の色彩と穏やかな曲線美で女性のフェミンニンさと憂いを帯びた上品な女性ををテーマに画き続けた。

彼女の作品は一度は目にした事があるだろう。グレーにパステルカラーを載せていく作品が多くあり、いわさきちひろ氏が感銘を受けた話は有名である。6歳のマリー・ローランサンは母のお針子仕事の横で布糸ボタンを使用し作品を編み出したとされる。いわゆる敏感期の波に乗り配色の美的センスを獲得したのである。

本筋からはずれるのであるが科捜研の女は科学的な仕掛けに興味があり時間があえば見るのだが、冬設定で沢口さんが身につける衣装がマリーローランサンの配色を意識しているのだと感じたことが何度かある。品のあるグレーの配色にパステルカラーはなんといっても美的だ。映画やドラマを鑑賞するとき画家らの配色センスを辿るのも心豊かになれる瞬間である。


今回彼女を取上げたのにはこれまでの母子の姿とは異なるのでフォーカスする。

マリー・ローランサンは1883年フランス・パリ シャブロル街36番地で私生児として誕生する。父は妻子あるブルジョア階級の官吏で、母はブルジョア階級の家事労働をしていたポーリーヌと言う女性である。戸籍上記載されぬ父親と自分の姓を与えることを承諾するも法的には我が娘を認知しない母親という複雑な環境下で生まれ育った。これも仕方のないことで母は22歳、家の主人に抵抗できる立場ではなかったのである。マリーの出産を生涯過失と思っており、両親や兄弟親戚との交流を一切断ち母ポーリーヌと娘マリーはひっそりと生活をしていた。

上記の写真は母ポーリーヌで彼女はかなり程度の高い教育を受けていたとされ、ラテン語に通じ文学的素養があったことはマリーが事あるごとに語っていた。

しかし愛情深く娘マリーを受入れていたというよりは自分自身の人生はこんなはずではなかったという過失の念が母性愛の構築を妨げ、娘に対する愛情表現を麻痺させていたようだ。マリーは母に対してこのように語っている「私が目にする母はいつも長椅子に横たわり、全てを見通す力をたたえた黒い瞳をじっと私に注いでいる姿だった。」「容赦のない冷たい女性」と。しかしマリーが思春期を向かえる頃に一変していく。

その理由はマリーのこの言葉で推察できる。「何年もの間母はさげすみの念しか示さなかったが、やがて私達の間に一つの絆が生まれた。誇り高く侮辱的な人が態度を変え世にも稀な優しさでもって私に報いてくれた。」母の一変した理由とは、たまに訪れる父に対してマリーが抱くの嫌悪感である。一般家庭では思春期特有の父親に対する嫌悪感だったかもしれないが、母が自分自身に向ける冷たい視線の理由が父にあることは察しが付いていたはずである。母に愛されたいという思いが過剰に反応してしまったのではないかとさえ考える。

母ポーリーヌにとって自身の過失という重荷が娘の父に対する反抗的行動で一種の救いとなり、母娘の初めての同盟を結んだ瞬間でもあったのであろう。マリーは母を表現するときに2通りの言い方をしている。一つは先出の『容赦のない冷たい女性』、そしてもう一つは彼女が生涯画いたエレガンスな女性は母なのかもしれないと思わせる言葉である。

「その手はこの世で一番美しかった。彼女の魅力とはなんだったのであろうか。その眼、その声、あんなにもゆったりした身のこなし、私には説明が付かない。彼女を思うとき、それもしきりに思うときそのエレガンスさと言う言葉が思い浮かばず、私は彼女を女王様とよんだの。」

フランス人特有の言い回しがあるものの母を愛していたことが端々に感じられる。幼少期から母娘二人で生活しその全てで母の視線を感じ、心の底から母を求め成長したのであるから取分けマリーが女性の神秘をエレガンスさを画くことに抜きん出た女流画家になったのは何ら驚くことではない。母のことをどう思っていたかの言葉を読めば十分だ。いろいろな人々からの依頼で描く作品の奥には母ポーリーヌに対するマリーの思いを感じてしまう。

マリー・ローランサンは母の望まぬ妊娠出産で母の無条件の愛情という点に於いては心満たされぬ部分を感じ成長したであろうが、それでもブルジョア階級の父の援助によりブルジョア階級の一部の家庭の子供が通う学校での高等教育も受け何不自由なく生活を送った異例な人物でもある。彼女がある程度画家としての評価を受け、裕福層からの肖像画依頼で名声を得たことは少なからず育ちと関係してもいる。

環境が選べない子供にとりどのように親が接し教育をするかで人格形成は幾通りにも変化する。それだけ子供を育てる親の責任は大きいものだが、それ以上に子供は親の様子を敏感に感じ取るものである。親の顔色を気にする乳幼児期の育て方はできれば避けて欲しいものである。

マリー・ローランサン、詩人ギヨーム・アポリネールと恋に落ち、ドイツ人男爵と結婚したが画くのは女性ばかり。彼女が幼い頃から望んでいたのは母の優しい眼差しでそれを追い求め表現したのがキャンバスの中であったと考える。

子供が瞼を閉じて思い浮かべる母の優しい表情や笑顔を残せるように私達親は努力すべきであろうと作品を目にする度思うのである。


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