提案『子供の目の高さで話す重要性』
乳児が真っ先に存在を感じるのは多くが母親です。ぼんやりとした視野の中で母の顔や姿を見ようと視野発達に勤しみ、母親の輪郭や表情が見えるようになり始める生後3、4ヶ月では社会性への土台が築かれていきます。そして母とのアイコンタクトやスキンシップを通して生後7ヶ月では、母親の表情の意味を理解し母親がにっこり微笑みかけると乳児もそれに応えて微笑みを返してくれるようになります。
実はこの乳児期で最も重要なのがアイコンタクトとスキンシップによる愛されているという実感を育てることであり、それにより母子の絆を深めることになり乳児は情緒の安定が促され人を信頼することができるようになるのです。
特に1歳未満の乳児期のアイコンタクトは絶対に軽んじてはなりません。親御さんをはじめとする保育者はきちんと乳児の目の高さに下りて優しい微笑みと言葉掛けを行いましょう。
乳児の愛着形成が進み、這うことが得意になると子供自身が対象との距離を詰めてものを目にする体験が増えていきます。すると初めて見るもの出会うもの、音が出るもの大きなものなどから生まれる初めての戸惑いを経験する瞬間がやってきます。その時に子供は親にそのものの存在が大丈夫であるか否かを確認する社会的参照という行動をとります。この社会的参照は子供自身が他者からの情報を得るためのとても重要な発達です。
その社会的参照を示す行動はフリーズして数秒止まった後に「あれはなに?」「初めてみたよ」「触っても大丈夫?」などと意味ありげな表情をしたり、訝しげな表情を浮かべて親の方に訴えかけたり、時に振り返って親の方を見て泣き出すことや後退りをする場合もあります。また親が「大丈夫だよ」と伝えてもフリーズしたままということもあります。この時に親が注意しなければならないことは、その子供が示している社会的参照行動を見逃さないことです。
他者からの情報を得る発達を身に付けなければならない発達を逃してしまうことは、極度に初めてのことを嫌がったり怖がったり、勇気を持って一歩が踏み出せなかったりの他に、安全確認が認知できないこと、状況判断ができずに突っ走ってアクシデントを起こしたり、他者の表情を確認する状況判断ができなかったり、指示が通らないということや周りの空気が読めないということに繋がりかねません。
ハイハイをし出したらいつでもその社会的参照行動が起きてもよいように、子供と同じ目の高さでものを見るようにしたり、初めて行く場所や初めて見るもの、初めて出会う人などの状況下で子供から暫く目を離さないでおくことが必要です。
また1歳半以降にさらに注意しなければならないことは、大人の表情から発信されることを子供はしっかりと見ているという認識を親が持つことです。
以前おられた生徒さんはお母様がレッスン中に露わにする反論の表情をお子さんがしっかりと受け継いで、乳児なのに露骨で怪訝そうな表情をされていました。つまり他者が発信する表情を読み取る発達途中にある1歳から3歳までは親の不愉快な表情を読み取らせるのではなく、子供に肯定的な表情を向け、誰の目から見ても素敵な表情を浮かべていると言われるような内面から溢れ出る美しいものの獲得に向けて働き掛けをしてほしいと考えます。
子供達は私たち大人が考えている以上にものすごい勢いでありとあらゆることを吸収していきます。それが否定的なものではなく肯定的なものであればいいのですが、そうでない場合の修正は私の経験からすると難しいと言えます。それは沖縄の方言で「やーなれー、ふかなれー」と言われているもので家の中で行われていることは外にいっても同じように行われるという意味になります。もっと分かりやすくお伝えすると『育ち』ということになるのです。育ちの良さは所謂親の立ち振る舞いからくるものです。また幼い頃に獲得したものは成人して子供を持って親になってもふとした時に現れ出てしまうものです。
また子育てをしていて思い当たる節もなく子供がいうことを聞かず困ると言った場合の多くは、伝承原理といい親御さんの子供の頃の行動が現れ出ている場合があります。これはなかなか説明し難いものがありますが、よくよく聞き取りをするとそこに行き当たることがあり不思議な感覚になります。親の育ちは子供にダイレクトに影響することを知っている私からすると納得できる現象でもあります。子供は育てたようにしか育ちません。別の見方をすれば親御さんもまた育てたように育てられ、親になって自分が育てられたように子供を育てていくので伝承原理になることは当然と言えば当然かもしれません。
特に子供が3歳になるまでは社会性を育てる上で自分自身の意見を言える毅然とした態度はとても必要だと思いますが、相手を不愉快にする表情を獲得させないことが重要です。それを身に付けた場合はお手本が必ず側にいるのです。子供はそもそも育てられた人からの影響をダイレクトに受け継ぎ、それが1歳から3歳までということを親はしっかりと認識し表情豊かに朗らかに子育てにあたってほしいと考えます。
さて子供が1歳半以降になりしっかりとした歩き出しができるようになると親は子供と目線を同じにして会話をする機会が少なくなります。これはやっと歩き出せるようになった安堵感からくるもので、屈んで膝を折って子供と同じ目の高さで話しかけるよりも歩いている子や立っている子供の頭上から言葉を投げかけている事の方が圧倒的に多くなるからです。
しかしまだまだ子供にとっては親とアイコンタクトをとりながら話をすることが重要な時期で、特に呼び戻しや指示行動の基盤を作らなければならない年齢でもあり、何より人の話に耳を傾ける傾聴を促さなければならない重要な時期でもありますから必ず子供の目線に大人が下りて会話をするよう心掛けましょう。
3歳以降の幼児期には相手の表情でその人の喜怒哀楽を判断できると言われ、他者の立場になってその気持ちを理解することができ、6歳ごろには本当の感情と建前の感情があることに気付いて理解しているといいます。このように年齢によって子供たちは様々な発達期を迎えますが、人の表情を読むという発達の変化を踏まえた上で私たち大人がやるべきことは、何度も同じことを書きますが子供達の目線に立って会話を行うことです。
子供達の視野範囲は垂直や平行方向に於いてもは私たち大人の半分程度しかありません。よって子供の頭の上で大人が話しかけても表情が読み取れず、言葉やその意味を理解することは大変難しいものです。また子供たちは大人の話す口元よりも目を見ているという研究データーもあり、目の表情を重視しています。目を見て話せばその人が真剣かどうかがわかるように目は心の窓としての役割が高く、本能的に子供たちはそのことを認識していると考えています。実際に目力で真剣に子供達に伝えるべきことを伝えると不思議と通ずるものだと実感しています。どうしてもビシッと注意を促さなくてはならない場合には、子供と目を合わせ目力を持って冷静沈着に淡々と真剣に諭せば理解ができるのですが、そもそもアイコンタクトが十分でない環境で育つと目を合わせないので指示が通らないことも多く、大人が何度も同じ注意をすることになり、また子供はその注意を何度も言われることになります。「相手の目を見なさい」と注意をすることから始めなくてはならず両者にとって良好な時間にはなりません。大人の社会でも目を見て話をしてくれない人に出会うと何か引っ掛かりが感じるものですから、我が子がそうならないためにも親子で見つめ合って会話することを心掛けましょう。
年齢によってどのような発達を遂げてくるのかを記しながら記事を書いてきましたが、子供の視野の広さは大人の半分という狭さを理解した上で、子供たちは乳児の頃から社会性を身につけるために必要としていることを親や保育者から与えられる環境の中で育ち、子供は大人の知識がないというだけで成長の幅が確実に狭められていく弱い立場にあります。だからこそ母親として父親として我が子を育て上げるためにどのような行動を取るべきなのかを学ばなけれなならないと考えています。以前も似たようなことを書きましたが、皇族の方々が小さな子供たちと会話を交わす場面では必ず屈んでおられます。どのようなお立場に在られても子供を一個人として見てくださる様子に、この行動が日本の至る所で、立場や地位に関係なく行われる国であるならば日本の未来は安泰なのではないだろうかとさえ思うのです。一見小さな行動にも大きな意味があることを再確認して日々を楽しんでほしいと思います。
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