絵本『やまなし』
この宮沢賢治作品は子供と読むことが好きで繰り返し読んでしまっているうちに誦じることができるようになってしまった絵本です。またこれがきっかけで多くの文学作品を暗唱したきっかけになった一つの作品でもあります。
「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。」
静かな静かなゆっくりと水の底に静かに入り込んでいくかのような口調で読んでいると、言葉の敏感期を迎えた子供が待ちきれない様子で「青い幻燈って何?」と私に質問を浴びせ「しーっ」と制止して読み進めたのを今でもはっきりと覚えています。
「クランボンはわらったよ」
「クランボンはカプカプわらったよ」
「ねえ、クランボンって何?」「ボンボにエールの中に入っているお砂糖のお菓子のこと?」とまたまた幻想的な世界に行きたい私を制止する子供についつい「聞いていたらわかるから黙って聞いて」と言ってしまい、なぜ私の父が私に読んでくれた時ように優しく質問に答えることができなかったのかと今だにどこか心が痛くなるような気持ちを抱えている作品でもあります。
きっと宮沢賢治の描く「やまなし」の柔らかい抽象的な描写の世界に自分自身が入り込みたかったのと、子供の頃に感じた優しい光、ゆらゆらと揺れ動く水天井・・・の世界観を子供にも味合わせたかったのだろうと当時を振り返ります。しかし反省ばかりではなく子供と共に絵本の淡い視覚情報を思い描きながらお風呂場で楽しくラ・フランスを浮かべて香りを楽しんでいた頃が懐かしく蘇る作品です。
幼い頃私は毎晩他の兄弟に母を取られ強制的に父と寝ることになっていたのですが、その時この作品も父に読んでもらった記憶があります。「やまなしってなんだろうね」と言って父に教えてもらい絵本のように梨が熟し発酵する香りを嗅いでみたいと伝え、なぜか山桃を発酵させたものを嗅がせてもらいガッカリした思い出があります。父は父なりに子供に何かを伝えようとして行き着いたのが山桃だったのでしょうが、泡盛に山桃を投入したのが父らしいと言えば父らしい、そうクスクスと思い出しながらこのブログを書います。そういえば私の父と子供がカワセミの話をしていたのも思い出しました。絵本は親から子へ、子から孫へ、そして祖父から孫へと受け継ぐことができるものだったんだなと思いつつ目頭が熱くなります。そう考えると心の奥に残る財産を三世代で共有できた幸せを噛み締めています。
思い出の形もいろいろあると思うので皆さんなりの絵本の思い出作りにこの宮沢賢治の『やまなし』を活用されてみてはいかがでしょうか。
そういえば5月5日に映画『銀河鉄道の父』が公開されたそうです。どのような宮沢賢治親子が描かれているのか楽しみです。今日は空に向かって父と山桃入りの泡盛の話をしてみようと思います。
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