偉人『ふたりのスティーブ』

2024年3月15日偉人『スティーブ・ジョブズ』の出生から彼の持つ攻撃性について記したが、今回は彼と同じ名前の盟友スティーブ・ヴォズニアックとの対照的な性格とその関係性から人生とは何か、人生で最も大切なものは何かを盟友ヴォズニアックを中心に記すことにする。


日本の諺に『負けるが勝ち』『損して得取れ』『急がば回れ』という類義語があるが、これらの諺の意味を人の人生に置き換えて考えるとヴォズニアックの人生の価値観が見えてくる。

若い頃は誰しも目に見えるものや結果が全てであったり、数値化しやすい経済的価値を損得勘定に置き換えてみたり、あるいは競争意識が強く勝負の勝ち負けに囚われがちであるが、ある程度の人生経験をしてくるとそんなものでは推しはかることができない重要なことに気がついてくるのである。物質的なものに惑わされず囚われず、心のゆとりを持ち自分らしく生きる人生を送る方がつまるところ想像以上に多くのものを手に入れているのではないかと感じて仕方がないのだ。その代表的な人物がジョブズと共にアップル社を立ち上げ、アップル社の技術を担っていたのがヴォズニアックである。

気性が激しく人とのトラブルを引き起こすジョブズとは正反対の穏和で思いやりがあり義理人情に熱く面白みのあるヴォズニアックは、1950年カルフォルニア州サンノゼでロッキード社のエンジニアであった父ジェリー・ヴォズニアックの元に誕生する。

ヴォズニアックは小学校6年生にしてIQ200を超えていたというが、なぜそのような数値を叩き出せたのは父ジェリーが深く関係している。父が勤めていたロッキード社といえば世界的な大規模汚職事件と首相田中角栄の逮捕を思い出すが、アメリカの主に軍用機を製造していた航空機メーカーであり父ジェリーは兵器の開発に携わっていたという。彼は父の仕事場に出入りし多くの電子部品を目にすることで次第に電子工学に興味を持ったという。さらに彼が恵まれていたのは父の存在である。彼がが父ジェリーに1つの電子部品について質問をすると、物理の原理から話が始まり原子・電子・中性子・陽子など原点から全てを説明してくれ、幼い子でも理解しやすい父の説明により基礎を学んでいった。彼は素晴らしい環境に身を置いていたということである。その後の彼の生き方に通ずる基礎を父が築き彼自身が好きなことをどんどん深く学んでいきエンジニアリングの熱烈な支持者であり信者とも言える少年に育ったのである。

小学生になると友人の家と家とを結ぶインターフォンを制作するなど徐々にその才能を開花させつつあった。性格は引っ込み思案ではあるものの運動や野球なども得意で理数が吐出していたために小学校の頃はクラスの人気者であったという。しかし中学生になる頃にはその専門的電子工学の知識や学業が優れすぎて友人との会話が成立しなくなり次第に友人が減ったようである。数年はいじめにあい人生最悪な時間を過ごしたようであるが、友人といる時には空気を読んで自分自身の得意とするものを封印するように言葉を選んでいたという。彼の控えめな性格は元々のものであるが周囲の人々の中に打ち解ける術はこの苦痛な中学時代で獲得したものであろう。とはいえそこに身を置き続けていたわけではなく、いじめで自分自身を見失うのではなく好きなものに夢中になる時間も充実させ知識と技術を磨きいていった。そしてある雑誌で読んだコンピューターの記事をきっかけにさらに電子工学にのめり込んでいく。

高校では引っ込み思案ではあるがいたずらをすることが大好きで友人を驚かせようとメトロノームを改良した時限爆弾もどきを作り友人のロッカーに仕掛け、あまり精度の高い悪戯で警察や爆発物処理班が出動する大事件を起こしている。専門家の目までも騙してしまう悪戯をしてしまい1日少年院の留置所に入ってもいる。高校ではエレクトロニクスの授業を専攻していたが教師が教えることはないとしてあるコンピューター会社を紹介しそこで彼は初めてコンピュートとの出会いをしている。この経験が彼をコンピューターへの道へと導き大学卒業後には高いレベルの技術をマスターしジョブズと出会いで親交を深めていくのである。ジョブズはヴォズニアックの才能に驚き感銘を受け多くの夢を語り、共に画期的なものづくりをし、好きな音楽の話やたわいもない会話を楽しんだという。


しかしにジョブズがヴォズニアックを裏切る大事件を起こす。当時アタリ社というゲーム会社に勤めていたジョブズはヴォズニアックにゲーム制作を持ちかけた。わずか4日でゲームの開発を成し遂げたヴォズニアックはジョブズから成功報酬700ドルを折半し350ドル受け取るが、実は支払われていたのは5000ドルでその差額を全てジョブズが騙し取っていたのである。ヴォズニアックがその事実を知ったのは共にアップル社を立ち上げ軌道に乗せていた時期である。ヴォズニアックがその事実を知った数日後にジョブズは彼に力を貸して欲しいと新たな依頼をしてきたのである。ヴォズニアックからすれば怒り浸透で仲違いをしてもいいくらいの出来事であるが、人の良い彼は「もちろん協力するよ」と答えたのである。その事について後にヴォズニアックはこう答えている。

「事実を知った時には悲しかった。でもそれは大したことじゃなかった。最初から言ってくれればいいのにと思ったけどね」と。

報酬は5000ドルだけど君に渡すのは350ドルだよと言ってくれればよかっただけのことだと。寝る間を惜しんでゲームの開発をしたのはヴォズニアックであるから4650ドルを彼が受け取って然りだと思うのだが・・・本当に欲のないいい人なのである。ジョブズの裏切り行為にそう答えることができる人物の心中にあるものはどのようなことであろうか。ヴォズニアックの幼少期から考えると合点がいく。彼が人生で一番苦しかった中学時代、いじめや無視をされるなどの経験を通して周りの空気を読んで協調することに努め、時には攻撃的なものから身を守る方法として一人好きな事にのめり込んで心を満たす方法を実践している。人と衝突することや人を批判する事に時間を費やすよりも自分自身の中でそれは些細なことで大したことではないと処理する力を持っていたと考える。また彼が両親から教えられた『自分の心に従う』ということも深く影響しているであろう。自分の心に従うということは好きな事に時間をあて豊かに過ごすという事なのであろう。

実は我が父も手広く事業をしていたときに社員により資金を持ち逃げされたことがあるらしいが、その社員の両親が家や土地を売って返済するとした時それでは年老いた両親の住むところがなく困るだろう。本人に責任があって年老いた親には責任がないとして話を引っ込めさせたという。父も自身の激動の人生から人との対立は何も得られるどころか負を追う事になるとして損して得とれを哲学的に実践していたのでヴォズニアックという人物も父と似たようなものがある感じている。

若い方にはあまりピンとは来ないであろうが偉人たちの生き様を調べているとヴォズニアックのような人物は人を諌めることも批判することも罵ることもない。自分自身の中で何が大切なのかをしっかりと見極めることができる人物である。そのような生き方を選ぶ人物は一見損をして馬鹿だな、なんと良くのない人物であろうと見られがちであるが、意外と晩年を自分らしく世の中に貢献し満たされている時間を送っている人物が多い。そして窮地に陥った時にどこからともなく助けの手が入っているのである。それが時に人望の厚い人物としての評価からくる人々の協力であったり、ビジネス的解決の糸口であったり、証明のつかない奇跡であったりとその時には必ずその人物の行いがそうさせたのであると評価される。

実はヴォズニアックは自ら操縦した自家用機で事故を起こし生死を彷徨い記憶障害も患ったのであるが奇跡的な回復をみせた。死んでもおかしくない状況から軌跡的に生還し、彼無くしてはこの会社は成立しないとジョブズを初め多くの社員が彼の奇跡的回復を祈っていた。

時間概念の記憶障害を起こした彼が選んだのはアップル社には戻らず中退した大学に入り直すことであった。社内でもカリスマ性があり何より技術貢献度の高さと人柄で多くの社員が彼を引き止めたという事実はジョブズの解雇の時とはあまりにも対照的すぎる。ヴォズニアックの退社後ジョブズもCEOでありながら解任され悲観した時に頼って心のうちを吐露したのがヴォズニアックであり、その後ジョブズがアップル社に再び返り咲いた際にはヴォズニアックに会社に戻る意思があるかと声をかけたほどジョブズは彼を信頼していた。しかし彼の返事は「NO」今の生活を気に入っているとして子供達にパソコン操作を教える道を選んだ。そして多くの様々な製品の開発のアドヴァイザーとして今も尚活躍している。


ジョブズの訃報を受けて彼はこのように語っている。

「若い頃僕らはいつも一緒にいて楽しい時間を過ごしてきた。ジョブズは僕にこれはできるかあれはできるかと無理難題な要求をしてきたが、僕らは共にそれを成し遂げてきた。エンジニアとしての自分を向上させてくれた。最初こそ彼には僕がいて幸運だったであろうが、今や僕の人生全てに彼がいて幸運だった。全てが彼のおかげだ。彼は強引で生意気な印象を与えるが僕にとっつてはいつも優しくいつも良い親友だった。」


頭の回転が早くいつもアイディアを湯水の如く溢れさせ、それを形にするためにはどうすればいいのか焦り常に怒りを募らせ誰かと口論し相手に罵声を浴びせていたテクノロジーのビジネスリーダースティーブ・ジョブズと自分の好きなことをただ好きだと思い続け無理難題を要求されてもそれは可能かどうかを突き詰め、信頼を寄せていた親友に裏切られてもそれを残念だ悲しいと自分の気持ちの中だけで消化し相手を恨むどころか感謝をする器の大きい人物のスティーブ・ヴォズニアック。強引に自分の意思っを貫き通しサクセスストーリーを駆け上がった人物スティーブ・ジョブズと成功を掴みながら自らその階段を降りていった天才技術者のスティーブ・ヴォズニアック。現代は彼らが生み出したiMac、iPad、iPhoneなどの多くのテクノロジーで豊かに暮らすことができている。彼らのように正反対の人格を持ちながらもある一つの目標に向かい時代を変えることができた軌跡を振り返ると、人それぞれバックグラウンドが異なればその影響は良くも悪しきも根深いものがあるが、自分自身が求めるものによって如何様にでも自らの人生を彩ることができる。そしてその彩の方法は千差万別でありどの方法を選択するかは心も持ちようであろう。人になんと言われようとも我が道を行く覚悟があれば自分自身のうちなる声に従い迷わず進むことができるであろうし、たとえ迷って立ち止まっても内観することで自分自身の進む道が見えてくる生き方もある。人生で最も大切なこと、それは自分自身の心に正直になるということではないだろうか。





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