提案『子供の痛みと心の関係』

先日レッスン中に椅子に足をぶつけた1歳の生徒さんが「マンマ、マンマ」とお母様に足をぶつけ痛いよと訴えかけていたのですが、お母様は私に質問をすることに夢中になり気づく事ができませんでした。すると小さな生徒さんは悲しそうな顔をして下を向いてしまったのです。生徒さんはお母様に「足をぶつけて痛かった」との思いを受け止め共感して欲しかった=分かって欲しかっただけなのです。日常過ごしているとこのように子供の訴えを見落とすこともあるかと思います。全てを受け止めることはできないものですが、今回は子どもの痛みを丁寧に受け止めることが安心感・自己理解・共感力を育て、結果として心の成長にしっかり繋がること、そしてその受け止め方にも節度があることを記してまいります。


1、子供の痛みに寄り添うメリット

心理学では 愛着理論 という考え方があります。これは子どもが「自分の気持ちを分かってもらえる」「安心して感情を出していいんだ」と感じられる経験を重ねることで心の安定や自己肯定感が育つという考え方です。さらに踏み込んだ内容を以下に記します。


①  安心感と信頼関係が育つ

痛いときに「わかってくれる人がいる」と感じると、子どもは心を開きやすくなり親や周囲の大人との信頼が深まります。人は一人では生きていけないので誰かを頼ることを成長とともに理解することになります。しかし幼い頃から適切に人に共感してもらい頼るということを学習していかなくてはなりません。困った時に困ったと言えること、人を頼っていいんだよとの思い実行できるようにすることは、その後の人生にも影響します。例えば転んで痛いときに「痛いよ」と素直に言えるのは、「この人なら自分の気持ちを受け止めてくれる、分かってもらえる」と理解しているからです。また本音を話してくれるようになり痛みだけでなく「怖かった」「嫌だった」「楽しくなかった」などの気持ちも隠さず話すことができるようになり、その後安心して初めてのことにも挑戦できるようになるのも大きな特徴で、「失敗しても受け止めてもらえる」と感じることが前向きに挑戦する事にも繋がるのです。そして私が一番強く感じていることは、どんなに大泣きして気持ちが乱れていても、落ち着くのが早くなる傾向が強く、また気持ちの切り替えや立て直しが早いのも特徴です。



②  感情を表現する力が育つ

痛みや辛さを受け止めてもらう経験を重ねると、「悲しい」「痛い」「怖い」といった気持ちを言葉で伝えられるようになり、これは将来のコミュニケーション力にも繋がります。なぜなら乳児は痛い感覚を味わっても言語を持っていないため、親や周りの大人が感情を言葉にしなければ『感情と言葉が結び付く』ことはありません。つまり子供が痛いタイミングで大人が「痛かったね」「びっくりしたね」と言葉を添えると、子供は自分の中のモヤっとした感覚に名前をつける事ができ、繰り返し聞くことで「これは痛い、怖い、びっくりすることなんだ」と理解するようになります。

また親が言葉にして表現することで「この感情を表現しても大丈夫なんだ」と学び、「言葉として相手に伝えてもいいんだ」と理解し安心して表現できるようになり、同時に気持ちを整理する力も育ちます。共感してもらうと子供は安心し落ち着くのも早くなり、その状態で「どこが痛い?」「どんな感じ?」などとやり取りすることで自分の内側を少しずつ整理(内観)できるようになり、これは『感情の言語化』や『自己理解』の基礎になります。『感じる』『言葉にしてもらう』『受け止めてもらう』を繰り返すことで感情を表現する力が育っていくのです。逆に受け止められない経験が続くと感じていても言葉にしない、できないの方向に進みやすいものです。



③. ストレスや不安の軽減

無視されたり否定されたりすると不安が強まりますが、共感してもらえることで気持ちが落ち着きやすくなります。人間は痛みや不安を感じると心拍が上がったり、呼吸が浅くなるなど体が緊張状態になります。乳幼児であってもその点は同じで大人が側にいて「痛かったね」「怖かったね」と穏やかな口調で語りかけたり、体をさするなどすると安心して体の緊張が緩み自然に落ち着く仕組みを持っています。

また誰かが気持ちを分かってくれるとそれだけで不安は小さくなります。たとえ痛み自体が消えなくても「支えてくれる人がいる、分かってくれる人がいる」という感覚がストレスの軽減になり負担を軽くします。しかし理解してもらえない事が続くと不安は孤立感と強く結びつくため、共感してもらえると「一人じゃない」という大きな安心を得るのです。

また辛い時には気持ちが乱れがちですが、共感してもらいながら言葉にしていくと「何が起きたのか」「何が嫌だったのか」「どうして痛くなったのか」などが整理します。そして整理されると漠然とした不安が具体的になりコントロールしやすくなりのです。

そして最後にこれらのことが経験として蓄積されることが重要であると考えています。「痛かった時も、辛い時も大丈夫だった」という経験が積み重なると、次に似た状況になった時に過度に不安やストレスを抱えることが軽減されます。つまり体が落ち着くと孤独感が減りそして気持ちも整理されることでストレスや不安が軽くなるのです。



④. 自己肯定感が育つ

子供が感じる痛みや不快な思いから自己肯定感が育つことに疑問を抱かれる方がおられるかもしれませんが、痛みや不快さを共感してもらえると「自分の感じていることに共感してもらっている、自分は大切にされている」=「自分の感じ方や存在が大切に扱われた」という経験がそのまま自己評価の土台になります。

もう少し詳しく説明すると先ず「自分の感覚は間違っていない」と学ぶことになります。痛さを感じた時に「痛かったね」と受け止めてもらうと、「自分が痛いと感じたことはおかしくないんだ」と理解します。次に「自分は大事にされる存在だ」と実感します。辛い時などに親が丁寧に関わると子どもは言葉で説明されなくても「自分は大切に扱われている」と実感し、この積み重ねが「自分には価値がある」と理解します。さらに失敗や弱さを見せても受け止めてもらえた経験があると「できない自分でも大丈夫」と思えるようになります。これが自己肯定感の核になるのです。この時に子供自身が自らの内側に安心できる感覚を育てます。



⑤  痛みへの対処力が身につく

痛みへの対処力が身につくのは、子供自身の痛みや不快に親が寄り添いながら「どうしたら少し楽になるかな?」と一緒に考えることで、子ども自身が対処方法を学んでいきます。

先ず強い痛みや不安の中にいる子供はパニックに近い状態で「どうしたらいいか」を考えにくい状況にいます。そこで大人が寄り添って安心させると気持ちが落ち着き「どうする?」「どうしたらいい?」と考える余裕が生まれ、落ち着いた状態でその状況を考えられるようになります。

次に具体的な対処を一緒にを体験し学ぶことができます。例えば「消毒して絆創膏を貼ろう」「冷やしてみよう」「ゆっくり呼吸してみよう」などとこうすれば少し楽になるという知識を得て楽になることを実感できるようになります。この行動は原因と結果を結びつけることになるので子供はだんだん自分で対処法を選び行動することができるようになります。ただ言われただけよりも体験として理解することが大事な学びにもなるのです。

そして最終的に自分でできるようになる=自立に繋がるのです。最初は大人と一緒に繰り返しますが、やがて「こうすればいいんだ」と思い出し自分で対処できるようになります。寄り添いで落ち着き、 一緒に対処し、効果を実感し、やがて自分でできるようになることで自立にも繋がるという流れになるのです。



2、過度な寄り添い

『子供の痛みと心の関係』に於いて「共感する」ことはとても大切ですが、やりすぎる=過干渉になると逆効果になることもあります。過度な寄り添いは「優しさ」「心配」から起きるので悪いことではないですが、少し方向を調整し安心と自立の両方を育てることが必要になります。

①  痛みや不安が強まる

先ず過干渉で起こりやすいのがこの痛みや不安が強まることです。大人が過剰に反応して「大変!すごく痛いよね!」と大きく共感し過ぎると、子どもは「これはすごく深刻なんだ」と受け取ってしまい、実際以上に不安や痛みを強く感じやすくなることがあります。状態としてはどんどん泣きが激しくなったり、「痛い!」と訴えが強くなる、落ち着くどころか興奮していく、親の反応を強く求め続けたりすることがありますが、これは不安や痛みに意識が集中しすぎている状態です。


②  対処能力が育たない

いつも大人が強く寄り添い過ぎる場合は往々にして大人が先回りすることが多いものです。すると子供は「辛い、悲しい、苦しい、痛い時には誰かに何とかしてもらうもの」ということを学んでしまいます。つまり誰かに対応して貰えば済むと学習し、自ら対応することや工夫する経験が減ってしまいます。するとなかなか自立に繋がらないという状況が生まれます。


③. 感情に飲み込まれやすくなる

共感が強すぎると気持ちを落ち着ける方向に進むことは難しくなり、「痛い気持ち、辛い気持ちにどっぷり浸かる状態になります。結果として気持ちの切り替えが苦手になることもあります。子供はまだまだ気持ちをコントロールする力が発達途中です。親や周りの強い共感や大きな反応に引っ張られて「痛い、辛い、怖い」と感情がどんどん膨らんでその感情にブレーキがかからない状態になりやすくなります。また大人が慌てたり深刻そうにすると子供は「これは大変なことなんだ」と受け取り不安が募り、結果として痛みに飲み込まれやすくなります。また強く「痛い」と表現した時に大きな反応が返ってくると、子どもは無意識に「こうするとたくさん関わってもらえる」と学習してしまうこともあります。これは自然な学習ですが、感情コントロールが難しくなると落ち着くことも難しくなるのでなるべくそうならないようにすべきです。


④  小さな痛みにも敏感になりすぎる

毎回大きく反応すると「少しの痛みでも大ごとなんだ」と学習してしまい、過敏になるケースがあります。これは数年前に途中入室の生徒さんでしたが椅子に膝をぶつけ、私が見た限りでは打ち身になるような衝撃でも無く、擦り傷にもましてや血も出ていないのですが大声で泣き叫んでお母様が困った表情になると言うことがありました。大事な一人っ子で女の子ということもあったかもしれませんが、絆創膏はないけれどラムネはあるといい口に入れた途端ケロッとしたことがありました。このようなことが一度や二度ではなかったので過度な寄り添いがあったのだと思います。



3、子供の痛みに寄り添う方法

この「子供の痛みに寄り添う最善の方法」はテクニックというより、流れ(順番)とバランスで決まります。ポイントは共感だけで終わらず、安心させ、一緒に対処し、自ら行動を起こせるように自立に繋げることです。

 ① そのまま受け止める

最初にやるべきことは評価ではなく共感で、「痛かったね」「びっくりしたね」と共感し、その行動が正しいかどうかの判断をしないのが大事です。


② 落ち着いたトーンで安心を伝える

気持ちが広がりすぎないように「大丈夫だよ」「一緒にいるよ」と優しく声をかけ、親の落ち着きを見せることで子供を安心させます。私は「どれどれ、見せてごらん」と最初に声を掛けると決めていたので「どれどれ」を聞けば安心するというようになっていました。それぞれのご家庭で決め言葉のようなものがあってもいいのではないでしょうか。


③ 状況を一緒に確認する

少し落ち着いたら現実に目を向けます。「どこが痛い?」「見てみようか」と子供と一緒にその状況を確認します。ここで泣いて動揺している感情を一旦現実へ少し戻します。私はその時に傷の程度を見て「これくらいならば血はどのくらいで止まり、かさぶたができ、何日くらいで治る」など伝えて見通しがつくように声をかけていました。


④ 対処を一緒に考える

ここがからが子供が自ら対処できるように育てる関わりです。「どうしたら楽になるかな?」「洗い流そうか」「消毒しようか」「冷やす?休む?」などその時の状況に合わせて子どもにも考えさせることが必要になります。私の子育ての場合多少の傷の場合には洗い流して消毒を促し、後は自然治癒力に頼りました。絆創膏に頼るとそれなしには不安になってしまうので余程のことがない限り絆創膏や滅菌パッドは使用しませんでした。傷口を見て気にする子供の場合には絆創膏で見えなくするのも一つの方法かもしれません。


 ⑤ 回復したら見守る

子供の気持ちが落ち着いてきたら親は関わりを少し減らします。ずっと寄り添い続けると親を頼り気持ちがまたブレることになるので、心も体も回復したら親は一旦距離を取り、子供の自立に繋がるよう見守ります。


⑥  自立を確かめる

共感することで心の安定を手に入れたら、安心が生まれ体の痛みや疲れに対応できるようになります。すると対処行動を取ることができるようになっているため、自分のことだけではなく周りのお友達や兄弟、親が怪我をした場合や辛い状況にある場合に寄り添おうとする子供に成長します。また多少のことでは動じない逞しい子供に成長する場合もあります。

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