絵本『わすれたって、いいんだよ』
本選びをするにあたり信頼できる出版社の作品を必ず新刊が出るとチェックするようにしていますが、その一社が光村教育図書さんの作品です。今回は6月23日の慰霊の日を前にこの作品を取り上げます。
戦後沖縄から神奈川や大阪に移り住んだ県人の多くがおられたことも今では知る人が少なくなっている中で沖縄戦を直接描くものでもなく、現実の生活の中から一個人の生きてきた歴史に目を向け、尚且つ現代社会が抱えるケアーの必要な人々にスポットを当てた過去と現代を結びつけて今の人たちが等身大で考えることができる作品を光村教育図書さんから出版されたことは個人的に大変嬉しく感じました。
現在ロシアによるウクライナの攻撃で人命を落としケガをしているニュースが流れない日はありませんし、中国の東シナ海への海洋進出や尖閣諸島への必要なまでの侵入、そして先日は北朝鮮からのミサイル発射による社会情勢の動向を見ても戦争を想像しないで済むような楽観視ができない状況にあります。そんなか迎える慰霊の日を前に子供達にはどのような絵本を提供すべきか悩み抜いた挙句この作品にしました。
私の経験上慰霊の日を前にするといろいろな展示物やニュースを目にして心落ち着かない子供達が少なからず出てくることを経験しています。不用意に必要以上に子供達が動揺をするようなものは取り上げるべきではないとも思います。一方で人間の浅はかさから招く負の遺産がもたらすものをしっかりと想像させることは必要だとも考えます。この作品は読み手の子供達が自分自身の解釈のスピードと質で考え心で感じることができる作品です。戦争をイメージできるような場面は以下のモノクロページのみ。そこにおばあちゃんが作れないと断った持ち料理『ムーチー』の秘密が沖縄戦と直結して描かれています。
自分の誕生日を祝うために出かけた先で母が命を落とした事実を抱えて年老いるまで、そして認知症になるまでムーチーを作れず食べることができず、誕生日を祝えない苦しみとはどういうものだったのかを考えながら読み解いてほしいと思います。
しかしムーチーを食べることができ誕生日を祝うことができることは、その苦しみを忘れることができる認知症を患ったからであり、その祖母を家族で支える絆もまた沖縄特有の親族間の強い繋がりを描いているような気がします。
6月23日沖縄戦終結の日がまたやってきます。広島や長崎の原爆も後世に語り繋げなければならない負の遺産ですが、ここ沖縄にも日本で唯一の地上戦で多くの命が奪われたことを忘れないための尊い『慰霊の日』があります。沖縄が先祖を重要視するのは元々の継承もありますが、沖縄戦で親族を必ず亡くしているということも深く関係していると思います。戦後78年を迎えようとしている今、あの戦禍の中で多くを失った中から人々は何を学んできたのでしょう。
対岸の火事では済まされない時代に子供に何を教えますか?
そう自問自答する日にしてみませんか。
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